短編小説集
「目、つぶってごらん? 俺が足してあげるから」
「何?」
「目、瞑らないとダメ」
「ケチ……」

言いながら目を瞑る。

すると、ちゅ、とこめかみあたりに音がした。

柔らかい、よく知った感触。ハルの唇――。

「本当は唇にしたいとこだけど、メイクを崩すのは憚られるからね?」

クスッ、と笑うハルの声が耳元でし、我に返った私は、

「なっ、ハルっ!?」

真っ赤になって力任せにハルをぶつ。ベシッ、といい音がした。

「あはは、ほら自然な赤みが差した。これですっごく血色のいい花嫁さんのできあがり!」

いつもみたいに、いたずらっ子のように笑って私から離れると、カメラマンさんの肩をポン、と叩く。

「すみません。今、最高にいい顔してるんで撮ってやってください」

カメラマンさんがこっちを見ると、にっ、と笑った。

「いいですねぇ? 目が生き生きとしてます」
「そうでしょ? カンナはちょっと怒ってるくらいがかわいいんです」

にこりと笑うハルには敵わない。

(――大好き)

高野カンナ。
今日から漢字一文字違いで、水野カンナになります。
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