催涙雨
『───‥あ…』
─────‥葵!
口先まで出かけた言葉は
寸でのところで
喉の奥の奥へと逆流する。
「───うっわあ。
降られちまったよ。」
玄関先に立ち尽くす
あたしを他所に
靴も脱がずにスーツについた
水滴を払い落とす人物。
「おう、海。何してんだ?」
雨のじとっとした臭いと
ムスクの強い香水の匂いが
混じりあっている。
普段はつけない香水を
つけているのは
クールビズがないために
汗の臭いを気にして
夏だけつけているんだ。
『───‥お父さん。』