アーティクル
「何か作ってみる?」
 倫子はワザと言ってみた。
 人の作品を読みに来たのに、律子も賢司も作ると言い出した。

「あら、そう。私は止めておくね」

 湯気の上がる異様な風景、その中で、二人は黙々と俳句を作っている。

 暇潰しに、倫子は掲示板の俳句を見ていたところ、一句だけ額縁に入ったものがあった。
 俳句の教会の認定員が書いたものだと、添え書きがあった。

 しかし、である。全く読めないのだ。格調は高そうだが、ヒョロヒョロ文字で、倫子にはそれが文字であるかでさえ判らなかった。

「下らないなぁ」
 倫子は呟いた。
 意味が解らなければ、何も伝わらないではないか。

 湯気の中の二人は、まだ、不器用に楽しんでいた。
 倫子は岩場に腰掛け、その姿に目を細めた。



第五話 『地獄で俳諧』

完結
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