君の知らない空


「諦めることないよ、まだ彼女と居るところを見た訳じゃないし、せっかく名前も分かったんだよ? あ、住んでるとこも」


住んでるとこ?


「え? 何でそんなこと分かるの?」


顔を上げると、優美の嬉しそうな笑み。
何かひらめいた?


「ジムには……霞駅のショッピングモールには自転車で来てるんでしょ? 夕霧駅で助けてもらった時は自転車じゃなかったんでしょ? 自転車で行ける距離じゃないから電車で行ったと思うの。彼の家の最寄駅は霞駅なんじゃない?」


「優美、すごい推理力だよ……全然気づかなかった」


優美の得意げな顔を見たら、胸の中でもやもやしてたモノがゆっくりと晴れていく気がする。


でも、ちょっと待って。


「でも、電車が遅れた日……私が夕霧駅から歩いてて、もうすぐ南町駅だっていう頃に彼とすれ違ったよ? 何であの日は自転車に乗ってなかったんだろ?」


自宅が霞駅近辺じゃないってこと?
いや、それとも夕霧駅まで自転車で行ったのかも?


「ん……何でかなぁ? 夕霧駅の近くに自転車停めて歩いてたのかなぁ?」


「夕霧駅前なんて、大した店もないのに何の用だったんだろ……」


首を傾げてたら、店のドアが開いて賑やかな声が聴こえてきた。
よく聴き覚えのある声に、背筋が伸びる。


振り返ると店に入ってくる一団。


マズイ!
慌てて顔を伏せた。




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