君の知らない空


頭の中では桂一の持っていた書類に載ってた彼の姿と、小川亮の姿がぐるぐると巡ってる。まるで何か急かされるような気持ちになっていく。


「あの……周さんは、この近くに住んでるんですか?」


私はどうかしているのかもしれない。
もし人違いだとしたら、見ず知らずの男性にこんなことを聞くなんてと思われてもおかしくない。


「はい、すぐ近くです。あなたも?」


それなのに彼は不思議そうな顔すらしないで、にこやかに返す。一見普通の人にしか見えない周という彼が、本当に美香の兄を狙っている人なのだろうか。


「いえ、この辺りではないんです。ショッピングモールに来たついでに立ち寄っただけなんです」

「私も、ついさっきまでショッピングモールにいました。奇遇ですね」


桂一が見かけたのは、この人?
もしかすると、今も探しているのかもしれない人は彼?


目の前に停められた赤い自転車が、鮮やかに目に映る。どう見ても私には、小川亮の自転車にしか見えない。


「そうなんですか……ショッピングモールには、この自転車で行ってたんですか?」

「はい、自転車は便利ですね」


周さんは笑顔を絶やさない。
赤の他人である私に、いとも簡単に笑顔を見せることができるのはなぜ。


「周さん、この自転車は、あなたの自転車ですか?」


周さんは口を噤んで目を細めた。笑っているのとは違う、その目は冷ややかに自転車に注がれている。


「いいえ、私の自転車じゃない。どうして?」


じゃあ、これは誰の自転車?
気を悪くしたのだろうか、周さんは黙り込んだ。


「ごめんなさい、あなたを疑ってる訳じゃないんです。知ってる人の自転車によく似てたから」


私が謝ると、周さんが小さく息を吐く。


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