君の知らない空


「美香と……話していたのか」


綾瀬が掠れた声を漏らした。美香と話す私の声が聴こえていたんだ。


「はい、ここに来ないように……身を隠すように話しました」


緊張を抑えながら告げると、綾瀬は安心したように目を閉じた。


「よかった……ありがとう。君が高山さん?」

「はい、あの会社では美香さんにお世話になってます」

「いや、世話になっているのは美香の方だ。美香から聞いたよ、今まで働いたことなんてないのに、高山さんのおかげで続けることができると」


と言った綾瀬は至って穏やかな声。いつか見た時の荒々しさはまったくない。


綾瀬の意外な一面と、美香が私の事を話しているという気恥ずかしさで言葉が思い浮かばない。


何から話せばいいのかわからないけど、私がここにいる時点で綾瀬は自分や美香に危機が迫っていることに気づいているはずだ。


私の知り得た現状を話すべきか、どうしようかと言葉を探していると、綾瀬がふと笑った。

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