君の知らない空


私は毎日一時間から一時間半ほど残業してからジムに通った。するとちょうど彼が現れる。毎日ではなく、一日から二日置きぐらいのペースで。


しかし受付を終えた彼が、どこへ消えてしまうのかは分からないまま。気づくとジムに通い始めて、二週間が過ぎていた。


「高山さん、熱心ですね」


インストラクターの女性が声を掛けてくれる。彼女の名は沢村さん。やはり私と同じ年齢だと判明した。


先週の土曜日は来ることが出来なかったが、ほぼ毎日来ているから完全に顔と名前を覚えられてしまっている。


でも、決して嫌な気はしない。


さらに沢村さんは、私に救いの手を差し伸べてくれた。


二週間目の金曜日、ストレッチをしていると沢村さんがやって来た。


「高山さんは泳がないんですか?」


一緒にストレッチをしながら、沢村さんが訊ねる。


「え? 泳ぐ?」

「あ、知りませんでした? ここ、プールもあるんですよ? よかったら使ってみてくださいね、気持ちいいですよ」


私は愕然とした。


知らなかった。
プールがあるなんて……




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