千の夜をあなたと【完】
四章

1.手紙




10月中旬。

レティとリュシアンが乗った馬車は、コルウィンから南に4日ほど行ったところにあるウェルシュの町に到着した。

ウェルシュはウェールズのほぼ中央にある街で、古くから信仰の町として有名だ。

街の至る所に教会があり、神父やシスター達が表通りを行き来している。

二人が乗った馬車はウェルシュ伯の屋敷の門をくぐり、中庭のアプローチを抜けて玄関の前で止まった。

玄関の前に立っていた白髭を生やした執事が、馬車から下りた二人に腰をかがめて一礼する。


「お久しゅうございます、リュシアン様、レティ様」

「久しぶりだな、ジェイク」

「さ、中へどうぞ。トマス様とキーラ様が首を長くしてお待ちでございます」


執事のジェイクに案内され、二人とケネスは応接室へと通された。

やがてドアが開き、少し小太りだが人の良さそうな紳士と、褐色の髪を後ろでまとめた女性が姿を見せた。

女性は二人の姿を見るなり、瞳に涙を浮かべて駆け寄ってきた。


「あぁ、リュシアン、レティ! よく無事で……」

「御心配をおかけして申し訳ございません、キーラ叔母様」


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