キウイの朝オレンジの夜


 ニード喚起も情報収拾もしていない人に『契約してもいい』、しかも『してやってもいい』何て上から目線で言われる時は、その後必ず後ろに「ただし」がつくと経験上判っていた。


「――――・・・今現在、無保険でいらっしゃるんですか?」

 無表情になったあたしの警戒が判ったらしく、ニヤニヤ笑いを更に大きくして男は言った。

「今入ってるのなんか解約して、こっちに乗り換えてやるよって言ってんの。どうせ枕営業してるんだろ?でなきゃ生保でいい成績なんて取れるわけねえよな」

 ―――――来た。

 アンケート用紙を挟んだクリップボードを抱きしめて、あたしは目を閉じた。目の前の男を殴ってしまわないようにと深呼吸する。

 ・・・枕営業、してるんだろ?

 うわあ、久しぶりに聞いたなあ!ってか、契約貰う為に一々体差し出してたら身がもたねえっつーの!!

 あたしはゆっくりと口を開く。怒ってはいけない。相手はこっちの反応をみて楽しんでいるだけだ、と言い聞かせる。

「・・・今入ってらっしゃる保険を大切になさって下さい。見直し等のアドバイスはいつでも承りますが、基本的には保険の乗り換えはオススメしません」

 男の襟元を見詰めながら話す。目を合わせたら殴ってしまいそうだった。

 ヤツは一瞬不思議そうに首を捻ると、更に一歩近づいた。あたしもそれにあわせて下がる。

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