ペーパースカイ【完結】
# 8 芳明
家が、嫌いだった。

夏は死ぬほど暑くて、冬は冬で、死にたくなるほど寒い。

どこかにある隙間から、蟻やゴキブリやクモ、トカゲまで入って来る。

木造築30年以上、小さな、マッチ箱のような古びた2階立ての家。

俺が中学に上がるくらいまで、母親は夜の勤めに出ていたので

夜になるとまだ幼稚園児だった将太と小学生だった昭彦は

俺にくっついてきて離れなかった。親父は毎日帰りが遅かった。

弟たちのお守りで忙しく、ひねくれるような暇はなかったから

自分で言うのもバカバカしいけれど、俺はまっすぐ、地味にまじめに育った。

言い争いの絶えない両親たちは、まるでお互いを憎んだり疎んだりすることで

途絶えそうな夫婦関係を、なんとか持続させているように見えた。

しかし、そんな歪んだつながり方がいつまでも続くわけがない。

離婚することが決まった時、きっと両親は我が事ながらホッとしただろう。

誰よりも一番ホッとしたのが、息子である俺だということには気づかなかっただろうが。

「芳明、お母さんと行く?それとも」

母に問われた時、真っ先に思ったのは学校のことだった。

せっかく入った、結構頑張って勉強して入った高校。クラスメート。

そして、弟たちのことを思い、目の前のやつれた母のことを思い

「母さんについていくよ」

そう答えた瞬間に、目の裏に憧子の笑顔がパッと花のように咲いて、すぐに散った。











< 180 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop