As Time Goes By ~僕等のかえりみち~
「で、何…?」
廊下に出た俺は、無愛想に口を開く。
コイツに愛想振り撒く意味は…ないからだ。
「悪いな。急に呼び出して。」
「…………。」
「…で、話なんだけど……」
「俺はしねーぞ、野球なんて。」
「…………は?」
『は?』って……
「……は?」
「いや、それは分かってるし。」
「……………。」
あれ……?
「そうじゃなくて…、聞きたいことがあったんだ。」
「……なに?」
里中はちょっと躊躇って。
それから…思わぬひと言を。
「今お前と話してた子。名前…何て言うの?」
「…………は?」
「あの子陸上部だよね。お前と一緒にいるとこよく見掛ける。もしかして…彼女?」
「いや、違うけど。」
「じゃあ良かった。」
「お前、上原んとこ狙ってんの?」
「うん、そう。てか上原さんて言うんだ?下の名前は……?」
俺は……、
コイツがどんなに真面目で、女にモテて、芯の強い人間なのかを…よく知っていた。
昔約束を交わしたライバルが、野球以外での……
ライバル宣言。
「上原……『結』。」
咄嗟に…俺は、嘘をついた。
「『結』ちゃんね。」
「…なに?らしくないじゃん。一目惚れ?」
「いや、グラウンドで練習してるところ…毎日見えるんだよ。」
ああ……そうか。
こっちよりももっと近い距離で……、佳明は、上原を見つけた。
なんとなく…悔しい気もする。
「…もしや…これもライバルだった?」
「……さあ…。」
少しだけ残った罪悪感は……、
俺の、ただの悪あがきで。
時が来たらどうにもならないことだと……
わかっていた。
こんな所でしか底意地の悪さを発揮できないのだから……
この時にはもう、手遅れだったのかもしれない。