As Time Goes By ~僕等のかえりみち~










「で、何…?」





廊下に出た俺は、無愛想に口を開く。



コイツに愛想振り撒く意味は…ないからだ。






「悪いな。急に呼び出して。」




「…………。」




「…で、話なんだけど……」




「俺はしねーぞ、野球なんて。」






「…………は?」





『は?』って……




「……は?」



「いや、それは分かってるし。」



「……………。」



あれ……?




「そうじゃなくて…、聞きたいことがあったんだ。」




「……なに?」






里中はちょっと躊躇って。



それから…思わぬひと言を。





「今お前と話してた子。名前…何て言うの?」











「…………は?」











「あの子陸上部だよね。お前と一緒にいるとこよく見掛ける。もしかして…彼女?」


「いや、違うけど。」


「じゃあ良かった。」



「お前、上原んとこ狙ってんの?」




「うん、そう。てか上原さんて言うんだ?下の名前は……?」








俺は……、


コイツがどんなに真面目で、女にモテて、芯の強い人間なのかを…よく知っていた。



昔約束を交わしたライバルが、野球以外での……




ライバル宣言。










「上原……『結』。」







咄嗟に…俺は、嘘をついた。




「『結』ちゃんね。」





「…なに?らしくないじゃん。一目惚れ?」



「いや、グラウンドで練習してるところ…毎日見えるんだよ。」




ああ……そうか。




こっちよりももっと近い距離で……、佳明は、上原を見つけた。




なんとなく…悔しい気もする。








「…もしや…これもライバルだった?」




「……さあ…。」








少しだけ残った罪悪感は……、



俺の、ただの悪あがきで。




時が来たらどうにもならないことだと……





わかっていた。




こんな所でしか底意地の悪さを発揮できないのだから……




この時にはもう、手遅れだったのかもしれない。







< 713 / 739 >

この作品をシェア

pagetop