愛し

-Ⅲ-

ピピピ…ピピピピピ…。

六時ジャスト。携帯電話のアラームが六畳ほどの部屋全体に鳴り響く。その間隔は狭まっているが、陽平の瞼は未だ開かない。

一分ほど鳴り続いたところで一度静かになるも、その五分後に再開された音は先程の比ではなく、ようやく体を起こした陽平は眠そうに目を擦りながらカーテンを開けた。どんよりとした曇り空ではあるが、久々に雨は降っていないらしい。

なるべく早めに出掛けて、美脚のお天気お姉さんのコーナーが始まる前に戻らねばと今日もまた心に誓う。

「いってきまー」

黒地にゴールドの三本ラインが入ったアディダスのウィンドブレーカーとシューズを着用し、ウェーブがかった黒髪を後ろでひとつに括ると、軽くストレッチをしてから日課である早朝ランニングに出掛ける。

これを始めた切っ掛けは、中学一年生の時に入った陸上部の顧問が「走れば走っただけ速くなる」と言ったから。

当時、県大会が迫る一ヶ月前から半信半疑で実施してみたところ、県内ベスト四という好成績を達成したことからそのまま続けている。

その間数多くの大会で入賞を果たし、スポーツ推薦で大学まで進学出来たのはそのおかげだと自分を誉め、陽平は更にペースを速めた。

通りを真っ直ぐ進めば交差点が見えてくる。いつもなら右へ曲がり、アルバイトをしているコンビニエンスストアの前を通るのだが、昨夜、深夜番のスタッフに笑われたこともあり何となく左に曲がってみた。

普段遠目から見ていた高層マンションが意外に近いところにあったんだなと辺りを見回していると、備え付けの公園にふたつの人影が見えた。

ひとつは木の影に隠れてあまり見えないが、もうひとつは背が高く、制服のミニスカートから覗く足がきれいでスタイルが良さそうな女の子だ。

可愛かったら儲けものだと陽平は挨拶ついでに顔を見ることにし、Uターン地点をその公園に決めて意気揚々と駆けて行った。


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