愛し
店を出ると遼はその足で近くの公園へと向かった。すっかり大人しくなっている真白に、幼かった頃の絵美を重ねてなんだか懐かしい気持ちになる。

真白をベンチに降ろすと五回ほど「ここから動くなよ」と伝え、遼は水飲み場へと駆けて行った。真白は俯いたまま自身の傷口を見つめている。

もう血も止まり、表面は固まってきている。痛みも治まりつつある今なら走って逃げられるはずなのに…。言われたままに座って待っている自分が不思議だった。

タッタッタッタッという足音に顔を上げると、ハンカチを濡らしてきたらしい遼が目尻を下げて笑っている。

「……何よ」

「いや。君なら隙を見て逃走しそうだなと思ったんだけど…、いて良かった」

そう言うと真白の前に片膝をついて座った。

ゆっくりと真白のパンプスを脱がし、傷口に砂や石がついていないことを確認する。「滲みると思うけど我慢して」と言いながら、濡らしたハンカチを軽くあてていく。ピリッと鋭く滲みて、真白は足をビクッとさせた。

「痛かった? ごめんな」

「……」

「綺麗な足なのに怪我させちゃって。……本当、ごめん」

遼は心底申し訳なさそうに言葉を紡ぎながら、男性にしては少し細く長い指で器用に処置を施していった。

傷口に息を吹きかけながら、消毒液を染み込ませた脱脂綿をトントンとあて、化膿止めを塗ったガーゼを重ねてから包帯を巻いていく。その一連の流れを真白はただ黙って眺めていた。
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