愛し

-Ⅲ-

「あいつら、遅いな」

遼と真白の一触即発ともいえる雰囲気に堪え切れず、結衣と共に足を進めてしまったが、なかなか追いついてこないことに陽平は不安を感じていた。

思いがけず結衣と二人きりになれたことは素直に嬉しい。しかし、すぐ暴力に走る真白と自分の幼馴染が一緒にいて、遼が自分と同じように急所を蹴られでもしているのなら…。思い出しただけで縮こまる気がした。

「もう少し待ってみて、来ないようなら電話してみようか?」

隣で陽平の袖をくいっと引っ張りながら結衣が提案する。その仕草がまたなんとも可愛らしくて、陽平は背筋を伸ばした。

「そうだな。戻って擦れ違いになることもあるだろうし、ここらで待ってみよう! あ、お腹空いてるって言ってたよね?」

「うん! 出店とかいっぱいあると思って、お昼ご飯軽めにしちゃったの」

「マジか。じゃあ何か食べながら待とう!」

「そうしよー! 私ね、さっきからあそこのたこ焼き屋さんが気になってるんだ」

「いいねぇ」と相槌を打ちながら結衣が指さしている店に目を向けると、白いタオルを頭に巻いた二十代前半くらいのイケメンがたこ焼きを器用にくるくると返していて、数人の女性客が群がっていた。

「…ちなみに、気になってるってあの店員?」

「え?」

「いや、あのたこ焼きくるくる焼いてる男の人。なんか向井理みたいでカッコ良い感じだから、結衣ちゃんもああいう人が好きなのかなって」

自分で聞いておきながら、「実はそうなの」なんて返事が戻ってきたらどうしようとそわそわしてしまう。結衣はキョトンとした後で、両手を振りながら笑い出した。

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