こうして僕らは、夢を見る
誰に言うわけでもなく呼び掛けると皆の視線が此方に向いた。



7人の瞳が一斉に此方に向く事がこんなにも緊張する事だとは思わなかった。



皆知り合いだけど少しビビった。犇々と感じる7人の視線に耐えながら私は言う。






「終わったら行こう?」






笑って、そう告げた。






「部活終わったら行こうよ?ね?終わったら皆で行こう。それまで私と桜子も試合見てるからさ」






とりあえず意見をてっとり早く纏めてみた。と言うよりも、これが当初の予定通りなんだけど。いつからか話が拗れていただけで。



桜子は私の出した提案に渋々といった表情で頷いた。



でもやっぱり頭の中は夏の風物であるスイカで埋め尽くされているらしい。






「今すぐスイカ食べたいけど蕾がそう言うなら仕方無い。アンタ達部活頑張りなさいよ。炎天下の中この私が見てて遣るんだからヘマすんじゃないわよ」






素直じゃない桜子姐さんは偉そうに喝を入れる。



とんだヘマするほど彼等も馬鹿じゃないよ―――――かき氷に薔薇を飾る馬鹿な翼以外だけど。翼は自分に酔いしれすぎだ。そのうち恨みを買いそう。



桜子姐さんの言葉に苦笑い気味に頷いたテニス部一同。



話が纏まったとき――――――――――――遠方から光陽高校ソフトテニス部のユニフォームを着た少年が叫んだ。






部長ーーーーー!


やーがーみーぶちょー!


ぶちょおおおおおおーーーー!









いったい何れ程の声量だったのか。やや背丈が低めの少年が元気に両手を広げて部長である司くんを呼んでいる。



山彦のように木霊して聞こえるのは気のせいじゃないかも。山でも無いのに反響して聞こえる。



ピョンピョン跳ねて八神部長を呼ぶ少年が微笑ましい。よく聞けば司くん以外の名前も叫んでいる。簡単に言えば全員に来て欲しい。






「部員さん?1年生くらいかな?可愛いな〜。もうそろそろ戻った方が良いみたいだね。部長さんが居なきゃ纏まらないし」

「名残惜しいですけど」

「ふふ。また後で逢えるよ」






肩をポンッと叩きと、もう片方の手にテニスボールを顔と同じ位置に持ち直す。



豚のような兎のような栗鼠のような宇宙人みたいなキャラクターが描かれた白いボールを頬に宛がいニコッと微笑んだ。



そのキャラクターを見ると司くんも笑ってくれた。






「……また後で」






ボールを持つ私の手の上から自分の手を被せた司くん。



力を込められると自然と私のボールを持つ指にもギュッと力が入り描かれたブタが形を崩した。



歪んだブタは笑っているようにも見えて何だか凄く可愛く思えた。そのブサカワな絵を見て司くんと微笑み合う。



不細工だけど可愛く愛らしいブタの絵が書かれたテニスボール。



白いボールを見ながら思った。



――………これ、大事にしよう。













< 183 / 292 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop