こうして僕らは、夢を見る

それから十数分経った今。

現在の時刻は18:20。



ウィンドー越しに見える外の景色は、ただの歩道。歩道だからこそついでに此のファーストフード店に足を向ける人が多い。



今は学生の帰宅時間だろうな。だからと言って混雑しないで欲しい。売り上げを伸ばしたい店長には悪いけど。所詮アルバイトなんてこんな感じ。



お客様は十数分前以来、来てない状態。客足も伸びずに相変わらず翔と談笑している状態に逆戻り。常にこんなに暇なら良いのに――――‥‥と悪態を付きながら。







「て言うか蕾の今日の髪、クルクルじゃん。」




ふと何故か翔がそんな事を言い出した。翔の言う通り今日の私の髪はクルクルだ。バイト用の帽子が被れるように耳下辺りでツインテールにされた髪を緩く巻いている。


綺麗に撒かれたハニーブラウンの髪に手を添えて指で絡め始めた。





「巻くなんて珍しいじゃん。いっつもストレートだし。」

「うん。何と無く巻いてみた。」





本当に何と無くだった。バイトの用意をしていたときに偶々、テーブルに置かれているコテが目に入り「巻いてみよっかな‥‥‥?」なんて思っただけ。


そうとは知らずに巻き髪を指で触りながら翔は厭な笑みを浮かべる。





「へえー‥‥。俺のため?」

「馬鹿。」





んな訳ないじゃん。

偶々だから。


皮肉な意味合いを込めて言ってやった。


そう言えば私のヘアースタイルは『ストレートより巻き髪の方が似合う!』とか翔が語ってた。巻くなんて手間の掛かるコトは面倒だったから断固拒否してたけど。


そして翔は何を思ったのか、私の髪をジッと見つめたまま逸らさない。指先は髪に絡めるように動いているのに、翔の身体ピクリとも動かない。


まるで指だけ動く人形のよう。





「――‥。」

「翔?」





私を見つめて満足気に笑った翔。私の呼び掛けにも応じずにあり得ない行動に出る。



この翔はいつ見ても苦手だ―――――――‥‥‥











掬った髪に唇をゆっくり口づけすると少し腰を折った状態のまま、翔は恰かも狙ったかのように上目遣いで私を見上げてくる。


そして上目遣いのままフッと笑みを浮かべてチョコレートのような甘ったるい声を零した。











「超可愛い。」


―――‥‥‥急激に火照り始めた頬は暑さのせいだと思いたい。
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