こうして僕らは、夢を見る






――――が。しかし。




私が近付くよりも早く、


後頭部を捕まれる形で引き寄せられた。








「―‥‥わっ、」




宙に浮く足。引力には逆らえず引き寄せられる身体。倒れそうだったけど幸いカウンターがあった為転けることは無い。


だけど私の心は転倒寸前。驚きのあまり声を上げてしまった。






―――きっとこの数秒たらずの出来事は私と司くんしか知らない。店内にはお客様も少なく濱口君等も話し込んでいて私達には気が付いていない。それに司くんが居ないことさえ気付いてないと思う。


濱口君等から聞こえてくる笑い声が自棄に鮮明に耳に付く。


全てがスローモーションみたいで時計の針が止まったかのように錯覚させられる―――――――――――――止まっているのは私たちだけなのかもしれないが。










「つ、かさ―‥く」




胸が鳴り響き過ぎて呂律が回らない。目の前には綺麗な金色の髪。そして蒼眼の瞳が私を射るように捕らえて離さない。


狼狽える私を知ってか知らずか。ゆっくりと司くんは形の良い唇をそのまま私の耳元へと近付けた。カウンターに付いている手が汗ばんでいる。微かに震えている指先を隠す為に手を拳を握る。




「――‥‥っ」



息が掛かるほど近く、金髪の髪が私の頬を掠めた。


一瞬だけ。ほんの一瞬だけだけど。司くんの匂いが良い香りだと和らいだ自分が変態みたいで気恥ずかしくなる。


足が痺れそう。爪先がプルプル震えている。正直言うと限界に近い。確りと地に足を付きたい。でも後頭部に回っている司くんの手がそれを許してくれない。


そして―――――囁くように耳元で発された甘い声。

















「―――――‥‥あまり妬かせるなよ?」


















心臓

幾つ合っても足りないよ、これ。




ニコッと人が好さそうな笑みを、ひとつ残してから仲間の元へと戻っていく司くんの背中を見ながら溜め息をついた。




「(司くん、私の心にも爆弾を置いていきやがった‥‥‥‥)」




私の勘は杞憂では無かった。だけど司くんが悋気する前に私の耳が焼け焦げてしまいそうな程熱い。



まだ未熟な司くんは未成年。況してや高校生。それとは裏腹に私は成人を済ませた21歳。高が4歳かもしれない。でも私からすると然れど4歳。年下に振り回されるなんてプライドが許さない。





でも。
本当はこんなこと認めたくない。けれど。
このとき。












確かに私は、ときめいた


( 高鳴る鼓動は当分、治まりそうにない )













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