Secret Lover's Night 【連載版】
「ママがね、キスは大好きな人同士がするって教えてくれた」
「え?おぉ、そうやな」
「ちさとはるもいっぱいキスするよ?大好きな人同士やから」
「それは…その先は?」
「その先はねー、ちさはまだ知らなくていいって。またいつかな、ってはるが言ってた」
「おっ…おぉ。そうか」

こんなにも幸せそうに笑う千彩を、吉村は今まで見たことが無い。

可哀相な子だ。
不憫な子だ。

と、皆がそう言っていた。可愛がって面倒をみてきた吉村自身とて、何と不憫な子だろうと思っていた。


そんな憐れみからではなく、あの男はこの娘を心底「大好きだ」と言うのだろうか。男と女として、自分が美奈に手を差し伸べたように、あの男もこの娘に手を差し伸べていると言うのだろうか。

当時の自分の想いと重ね合わせ、そして知る。行くな…と涙を零した男の想いを。

「ちー坊?」
「ん?」
「ハルさんが来たらな、おにーさまだけで話するわ」
「なんで?ちさは?」
「大人の話し合いやからな、ちー坊には難しいからこの部屋で待っててくれへんか?」
「イヤ!ちさはると一緒におる!はると行く!」

泣き出しそうな千彩の頭をそっと撫で、少しだけ声音を優しくする。

「話が終わったら、ちゃんと会わせたるから。な?」
「ほんま?」
「ホンマや。約束する」

渋々頷いた千彩の頭をもう一度ゆっくりと撫で、素直に育ってくれて良かった…と改めて思う。そして、まるで娘を盗られた父親のようだ…と深いため息を吐いた。
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