Secret Lover's Night 【連載版】
「あら。晴人おかえり」
「あぁ…ただいま」
「どうしたん?こんなとこに突っ立ったままで。ちーちゃんは?」
「…あっち」

ちょうど晴人に隠れて見えなかった二人を視界に入れ、母は「あらら」と苦笑いをした。

「調子が悪いんかな」
「俺が…ちょっと」
「こらこら。しっかりしてよ、お兄ちゃん」
「あぁ…うん」
「あらあら。ちーちゃん、プリン君がこんなとこで独りぼっちで寂しいって言うてるよー?」

ダイニングテーブルに荷物を置いた母は、窓際にポツンと置かれていた千彩の友人を拾い上げて晴人の横をすり抜けた。

「おかえり」
「ただいま」
「俺、もう出かけたいんやけど」
「はいはい。いってらしゃい」
「ちさもっ!」

泣きはしていないのだけれど、千彩は智人にしがみ付いて離れようとしない。それを引き離すことに相当骨が折れることは、黙ってその様子を見つめている晴人とて知っている。

「置いて行ってええ?」
「大丈夫よ。ちーちゃん、ママと一緒にお庭行こうか」
「イヤ!ちさもライブ行く!」
「ちーちゃんが行ってしまったら、晴人一人になってしまうよ?」

母のその言葉に、漸く千彩の腕の力が緩まった。そのタイミングですかさず立ち上がった智人は、一度ポンッと千彩の頭を撫でてギターを手に晴人の前に立った。

「良かったな。この状態まで回復した後で」
「・・・」
「もう10日早かったら大騒ぎやったぞ」
「そんなに酷かったんか」
「まぁな」

これ以上は母に聞いてくれ。と、智人はギター片手にその場を去った。トントンと階段を上る足音がやけに響き、晴人の気分を重くする。

静かに流れ行く時間と、居心地の悪さ。これに耐えられるだろうか…と出かかったため息を呑み込み、晴人はゆっくりと移動してソファに身を沈めた。
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