Secret Lover's Night 【連載版】
「誘拐か…どうかはわからんのですけど、おらんようなってしもて。この辺は俺が探したんですけど、見つからんで…」
「これは?」

恵介に押し付けられたお弁当箱を手に、吉村は問う。何を隠そう、これを買い与えたのは自分で。間違いなく千彩の物だと断言できる。

「公園に…落ちてたらしくて。俺ら知らんかったんですけど、ちーちゃん、毎日一人で弁当持って公園に行ってたみたいで」
「留守番もよぉせんのか、あいつは。まったく成長しとらん…」

ガックリと肩を落とした吉村に、恵介は苦笑いをするしかなかった。

吉村にとって、聞かん坊の千彩は手の掛かる娘で。自分の手元にいた間も、度々家を抜け出して近所の公園へと出かけていた。いくら勝手に行くなと言い聞かせても、「はーい」と適当に返事をするだけですぐまたいなくなった。

いつかこうゆうことになる。だから再三言ったのに…と、吉村は眉間に皺を寄せて唸った。

「すんません、三倉さん。うちの娘がご心配おかけして」
「いやっ、全然!それより…やっぱ警察に言うた方がええですよね?」
「家には帰っとらんのですかね?」
「晴人から連絡無いんで、多分…」

ポケットから取り出した携帯を見つめ、恵介はゆっくりと首を振る。

今頃、晴人は自分を責めてさぞかしグルーミーになっていることだろう。鬱々とした晴人を復活させるには、かなり骨が折れるのだ。それを考えると、更に気分が重くなった。

「ハルさんは?」
「家で待たせてます。あいつ、ちーちゃんのことになったら自制が利かんので」

第一印象からは随分と印象が変わってしまった晴人を思い出し、吉村はふっと眉間の皺を緩ませた。

「ハルさん…心配してますやろな」
「まぁ…相当」
「もう大丈夫です。俺がちゃんと探し出しますんで」

ふっと表情を緩ませた吉村は、一度大きく咳払いをして表情を戻し、助手席に座る男に声を掛けた。

「おい」
「はい」
「徹底的に洗うてうちの娘を探せ」
「は?」
「都内の関係者全部洗え言うとるんじゃ!」
「はっ…はい」

吉村の太く低い声に、恵介の背筋までピンと伸びる。これでもう…と安堵の息を吐きかけ、恵介は慌てて首を振った。さすがに鈍感な恵介でも気付くほどに、その場の空気はピンッと張り詰めていたのだ。

とんでもないことが起こる…と背中に冷たい汗を伝わながら、恵介は到着を待った。
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