Secret Lover's Night 【連載版】
ホックを留めながら、ソファに並べられていた服を思い返す。

遠慮と言うよりも、自分が着ても似合わない。千彩にすれば、どれも「可愛い女の子」が着る服で、到底自分には似合いそうもない。


「あ…ピッタリ」


サイズがピッタリだったことに少し驚きつつも、渡された服に身を押し込んだ。

そして、ベッドに脱ぎ捨てた服を丁寧に畳んで枕元に置き、改めてその部屋を見渡す。


「カメラマンって…お金持ちなんかなぁ」


広さは、さっきまで居たリビングよりも少し狭いだろうか。膝ほどの高さの低めのベッドは、一人で眠るには大き過ぎるほど大きくて。壁際に置かれた机の上には、大きな薄型画面のパソコンと、何だかゴツゴツとしたアクセサリーが無造作に置いてある。

今まで自分がいた環境との大きな差に、千彩は何だか虚しくなった。


「ここに…居てもいいんかな、ほんまに」


恐る恐る尋ねた自分に、晴人は笑って頷いてくれた。


俺が守ったる。


晴人はそう言ってくれた。確かにそれは、涙が出るほど嬉しかったのだけれど。


もしかしたら…またどっか売られるんかなぁ…


決して言葉には出せない不安が、波のように一気に押し寄せてくる。一度大きく頭を振り、唇をギュッと噛む。蹲り、膝を抱えた。


「ちぃ、着替えたらこっちおいでや?ご飯食べに行くで」
「ちーちゃーん。俺お腹ペコペコやわー」


その声に、勢い良く顔を上げる。溢れ出そうになった涙をゴシゴシと拭い、二人の待つリビングへと足早に駆けた。


このままずっと、
はるが傍に置いてくれますように。


千彩の願いはただ一つだった。
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