Secret Lover's Night 【連載版】
「なぁ、リエ?」
『なっ…何?』
「もうええかな?十分説明したと思うんやけど」
『ホントに…別れるの?』
「ごめん。もう無理」
『私…晴のこと好きだった』
「ん?知ってるよ?」
『いっぱい我が儘言ってごめんなさい』
「ん。ほなな」

啜り泣く声と共に、恋人だった女が最後にいい女を取り繕う。散々喚き散らした後だというのに。相変わらずだ…と、用済みの携帯を手放そうとして、再び震えたそれにため息を吐く。

「何?もう別れ話は終わったんちゃうかったん?」
『嫌よっ!私別れないから!ってか?』

笑い混じりに聞こえたのは、当初電話口から聞こえるはずだった声で。ふぅーっと息を吐き、晴人はわざと無言を貫いた。

『あれ?もしもーし?』
「・・・」
『ごめんってー。晴人さーん?』
「・・・」
『んー。取り敢えず玄関開けてくれる?ちーちゃんのプリン買って来たんやけどー』

うつらうつらとしていた千彩が、その声にガバッと体を起こす。聞こえていたのか。と、思わず噴き出した。

「けーちゃん?」
「そー」
「ちさが開ける!」
「どうぞー」

走り出した千彩の背を見送りながら、温くなりかけたビールを喉の奥に流し込む。

どうにも呑み込めない気持ちと、靄がかかったような思考に、晴人はこっそりと深いため息を吐いた。
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