カタチのないセカイの為に
※第五章※ イイヨ


夕飯が食べ終わって、

まだ四人とも席に着いているところで、
理子が口を開いた。


「優潤、今の携帯の番号教えて。」


麦茶を飲んでいた優潤の顔が、

ほんの一瞬、崩れるように綻んだかと思うと、
何事も無かったように、真顔になった。


「ごめん。
教えてなかったっけ?
まだ、番号覚えてないんだ。

ちょっと待って。」


さっきと一緒だ。


優潤の口から、再度リピートされる言葉に、

噴出しそうになった笑いを、

理子は必死で止めた。


掌に握られている携帯が、
テーブルの脇から出て来る。


優潤は、『チャンスだ!!』と頭の中で叫んだ。

今、美咲に携帯を聞くチャンスが、
目の前にある。

高が、携帯電話の番号を聞くのに、
こんなに緊張したのは、

生まれて始めてだ!!


不意を突かれさえしなければ、

感情を表に出さない事は、
優潤にとって、とても容易い事。



祖父に、
感情を表に出さないように、
教育されていたから。

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