僕の守護する君の全て。

「ああっ?なんだ、テメェ!」

「あっれぇー?今、責任者出せー!!って言ってませんでしたっけー?

お待たせしましたー♪ボクが今、アナタが胸ぐら掴んでる彼の責任者、上司でーす!」

ニコニコと笑い細められた瞳。

ノンビリとした口調で話しかけながら、僕の服を掴む腕へと伸ばした手は細く、恐らく『白魚』と言われる部類に入るんだろうなと思う華奢な白さ。

関節まで細いわりに、それなりには大きいその手で、まあまあまあまあ…♪と楽しげなリズムで浅黒い腕を叩き宥める。

「だめじゃないですかー、こーんな事しちゃ。彼だって真面目に仕事してるんですから、ねー?」

「仕事だか何だか知らねーが、納得いかねえから文句言ってんだ!!!」

「納得…ねぇ……。」

『ちょっと失礼ー?』なんて言いながら反対の手でカウンターに置かれた書類を持ち上げ、軽く目を通す。

「鹿山……かやまー…。……一太郎……ひーたろうさん?」

「いちたろう、だっ!!!テメェ、わざとまちが……」

「ああー、失礼。ここにちゃんと読み仮名ついてましたねー?」

失敗しっぱい、と舌をぺろりと出す『上司』を見て、馬鹿にされたと感じたのか……。一気に顔を真っ赤にした男の腕に力がこもり、思わず、ぐぇ!と妙な音が喉から漏れる。

ちょ……ギブ、ギブ…!!

「あらら…。幸(こう)君ー?大丈夫ですかー?」

呑気に尋ねる声に勢いよく首を左右に振りつつ、赤猿と化した男の腕を必死でタップする。

死ぬ!ホントに死ぬ!!

「あー大丈夫だいじょぶ。そー何度も死にはしませんよー。」

僕の言いたい事が分かったのか……。そう返してきたその顔は飽くまでニコニコと笑いを崩さない。

い…いや、っ…とにかく、本当に苦し、っ……!

「ふーむ。……。」

瀕死の僕に構うことなく、さらりと書類に目を通した上司は考える風に軽く顎を擦り、顔を上げる。

「……えーと…ひーたろうさん?」

「い・ち・た・ろ・う・だっっっ!!!!」

「ああー!そうそうそうでした。鹿山一太郎さん。

ええとー…?〇〇〇〇年7月23日、20時16分。

仕事帰りに行き付けである風俗店、『にゃんにゃん・ぱっふん♪』に出向く。…ほほーぅ…因みに本番無し60分コースをご堪能…ですか。なかなか有意義な時間の過ごし方してますねぇ。」

必要以上に良く通る声は、赤猿…もとい、鹿山さんの顔面を更に朱に染め上げる。

そんな相手の顔面近くで摘まんだ書類をヒラヒラさせる上司はにっこりと小首を傾げ

「……ここまで間違いありませんかー?まあ、ありませんよねー。なんたって包み隠せず誤魔化しなし、が家の信条ですからー…」

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