『主夫』だって『恋』してますけど何か?


あの日も夕暮れ時だった。


優は母と買い物から帰って来て
家にいるはずの父を探した。


「お母さん、お父さん
どこいったのかな?」


部屋を見渡してから母を見ると
テーブルの上に置かれた紙を
見つめて茫然としていた。



「お母さん?
どうしたの?だいじょうぶ?」


幼い優は、笑顔のない母を
心配して顔を覗きこんだ。



「・・・・・・優、お父さんいなく
なっちゃったみたい。」

母は頬に涙を流しながら言った。



その時の優には、いなくなるの
意味がいまいち理解出来ずにいたが
その日から何日たっても
父が家に帰って来ることはなかった。



「・・・・・っごめんね、
ごめんねマリン・・・・」

優は今の顔を見られたくなくて
マリンを抱きしめた。



(こうなるって解ってたのに・・・・・

どうして私は和樹を傍に
置いてしまったの・・・・)

優は後悔した。


(・・・・・・・・和樹。
逃げないって言ったじゃない・・・・

昨日、部屋を出ていけって
怒鳴ったから?
先生の所に行ったの?
カイトまで連れて?)



「・・・・ママ?どうしたの?
泣いてるの?」


マリンは抱きしめられていても
頭上から落ちて来た滴に気付いた。



「・・・・・ううん。泣いてないよ。
マリン、もう少しだけこのままね。」

優はマリンを抱きしめる力を強めた。



(もっと早く・・・・・
別れていればよかった。

こんな気持ちになるまで・・・・・
一緒にいちゃいけなかった・・・・

和樹・・・・・・

和樹・・・・・・

私・・・・・・・・

和樹の事・・・・・・・・)



優はマリンをずっと
抱きしめたまま泣いた。



マリンは抱きしめられながら
母の温もりをただ黙って感じていた。



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