夏男と夏子


――な、なんだ?! 誰かの忘れ物か?


俺の砂を踏みしめる微かな足音に反応するように、その影が動いた。


「誰だ? 誰かいるのか?」


声を出したところで、俺は後悔した。

ここは海だ。

俺みたいに一人で海を見ながら缶ビールなんて族の方がレアなのだ。

おおかた、カップルが海辺で戯れている、ってのが現実的な日常風景なのだ。


「す、すまん。邪魔したな」


俺は踵を返して、その影から遠ざかろうとしたんだか……


「待って」


そう言ってその影が立ち上がり俺の方に歩いてきたんだ。
< 23 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop