あおぞらカルテ
井口さんの家につくと、ちょうど院長先生も到着したところだった。

きっと自宅から直行したのだろう。


「あら、お昼間の若い先生も。わざわざありがとうございます」


おばあさんがヨタヨタと出てきて、玄関から案内してくれた。

昼と何も変わっていない畳の部屋には、大勢の親戚が集まっていた。

井口さんの兄弟から、まだ生まれて間もないひ孫まで。

ベッドの上の井口さんは、やっぱり息をしていないし、もう天に召されていた。

その傍で、にぎやかに昔話をしているなんて、ちょっと異様だ。

院長先生はそっと井口さんに触れる。


「0時23分、死亡を確認いたしました」


そう宣告すると、おばあさんは言った。


「おじいさん、大往生だねぇ。それに、最後まで院長先生にお世話になれて、あんた本当に幸せな人だよ」


続けて、おばあさんとよく似た50代くらいの娘さんも言う。


「おじいさん、ありがとう。先生も、ありがとうございました。最後に親孝行ができて、もう悔いはありません」


院長先生は深々と頭を下げた。

親戚の人たちも、みんな頭を下げた。

不思議な空間だった。
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