あおぞらカルテ
出そうになっていたくしゃみも引っ込んでしまった。


「はい、アーンして」


ペンライトをこっちに向けてきて、反射的に口を開けてしまう。


「風邪だね!急性喉頭蓋炎!」

「…でしょうね」


飯塚先生は楽しそうだ。

いつも楽しそうに仕事してるんだけど、こういう時は更に楽しそう。

研修医をいじめてる時とか?


「解熱剤出そうか?好きなのある?」

「じゃあロキソニン…」

「座薬でもいいよー。道重空くんの体重だと…カロナール座薬1回3個とか、どう?クセになるかもよー?」

「遠慮しときます…」


先生の冗談、笑えないんですけど。

残念そうに処方オーダーを入力している飯塚先生は、これでも案外良い先生なのだ。


「じゃあ今内服したら1時間後には熱が下がるから、それまでは休んでなさい」

「すみません…」


小児病棟の看護師が子供用の枕を2つ貸してくれる。

こういう時って人の優しさが身にしみるんだよなぁ。

トボトボと当直室に向かっていると、ドアの前ですれ違う男の子と母親。

新しい入院の子か?

歳は…小学校入学くらい?それか幼稚園か?

ぼーっとする頭で考えながら、フラフラと小児病棟を出た。

自分が担当医になることを知ったのは、その1時間後だった。
< 126 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop