あおぞらカルテ
柊斗くんの退院の日、病院の中庭の桜が満開になった。

昨日の雨がウソみたいに晴れて、アスファルトには桜の花びらが貼りついて、一面薄いピンク色に染まっていた。

桜の絨毯を歩いて行く柊斗くんと両親の姿を、8階の小児病棟の窓から見下ろしていた。


「おつかれ」


飯塚先生が缶コーヒーをオレに差し出した。

柊斗くんが小児病棟を去った今日、オレも小児病棟を去っていく。

初期研修1年目が修了するんだ。

次は消化器外科のローテが決まっている。


「どう?小児科医になる気になった?」

「…わかりません。でも、小児科も視野に入れるつもりです」


窓際にもたれかかって、いつもと変わらない病棟の風景を見渡した。

色々とやり残したことが多いからか、ここを去ることに後ろ髪をひかれる。

なんとなくセンチメンタル。


「もし1年後に戻ってきたら、その時はよろしくおねがいします」


飯塚先生は缶コーヒーを傾けて、一気に最後をまで飲み干したあと、


「“その時”には、もうちょっと一人前の医者になって来いよ」


オレへの贈る言葉。

一人前の医者に、なれるだろうか?

一年後、オレはどこに立ってるんだろう?
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