あおぞらカルテ
腹腔鏡のオペは職人技だと思う。

画面を見ながら機械を操り、神経や血管をかきわけかきわけ、病巣をうまく見つけ出して取り去る。

助手をやりながらも「へぇ~」「なるほどねぇ~」なんて感心しきりだ。

患者さん自身も、術後は傷が小さいから痛みは少ないし、入院も短くて済んでしまうから、開腹術よりも色んな意味で負担が少ない。


「道重くん、ここから勝負だからね!しっかり見てなよ!」


意気揚々、なんて言葉がピッタリ当てはまりそうな、術者の村瀬先生。

マスクとキャップで隠された顔から見えるキラキラした目が、無影灯の光で更に輝いている。


「お!自己ベスト更新!」

「自己ベスト??」

「オペ時間の自己最短記録更新しちゃったよ~」


村瀬先生はオペ室の壁のオペタイマーを指差した。

腹腔鏡下胆のう摘出術は、だいたい40分くらいが平均か?

タイマーは30分46秒を表示している。

その時間が指す凄さは、しがない研修医のオレにはよくわからなかったけど、村瀬先生にとっては大きな成果だったんだろう。

一緒にオペに入っていた消化器外科2年目の先生は、思わず拍手をするくらいだったから。


「今日は祝杯を上げに行こう!オゴリだ!」


上機嫌な村瀬先生は、さっさとガウンを脱ぎ捨てて、休憩室へ消えた。
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