あおぞらカルテ
水戸さんの状態は、低空飛行を続けている。

心筋ダメージは大きくて、機械と大量の薬でサポートしている状態。


「…心臓って怖いな…」


それが、医者になりたての素人の率直な感想。

父親は名の知れた心臓外科医で、それに憧れて医者になったのに。

だから普通の一般内科じゃなく、あえて循環器内科に研修に来たのに。

今更だけど自信がなくなってきた。


「ご家族は見つかりましたか?」


医局でヘバっていたら、いつもと変わらない表情の大屋先生がやってきて言う。


「できれば早くご家族に会っていただきたいんですけどね…」

「今、探してますからっ」


半分諦めモードですけどねっ。

でも、仕方ないから探してんですけどねっ。

電話帳で探すのをあきらめて、PHS片手に立ちあがる。


「ICUに行ってきます」


水戸さん、ホントに天涯孤独なのかな?

運ばれてきたときにポケットに入っていた財布。

悪いとは思いながら、財布をひらく。

コンビニのレシート、キャバクラの名刺、ポイントカード、郵便局の振込明細書。

生活感があふれていた。

その中に、色あせた1枚の写真。

…水戸さん?

もしかして…結婚してた?

七五三のときの写真なのか、袴をきた3歳くらいの男の子と、隣に写る女性。

背景に写る景色は、どこかで見たことがあった。

遠い昔、オレもこの場所で写真を撮ったような…。
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