あおぞらカルテ
美由紀さんは泣いていた。


「うそでしょう…?こんな姿になって…」


美由紀さんに寄りそう里香は、やさしく言った。


「手を握ってあげてください。奥さんだって、きっとわかりますから」


正確には“元”奥さんなのだけど…この際どうでもよかった。

美由紀さんは、確かにこの人の妻だったんだから。


「私たちには子供がいたんです…」

「あの写真の子供さんですか?」

「ええ…でも、小学校に入る前に交通事故で…」


言葉を失った。

なんて声をかけていいか。

水戸さんに、そんな辛い過去があったなんて。


「そこからギクシャクしはじめて別れてしまったんです。それなのに…この人、こんな写真を大事に持っていてくれたんですね…」


色あせた七五三の写真。

ちゃんと笑顔の美由紀さんも写っている。

水戸さん自身は、きっとカメラを持って立っていたんだろう。

どこにでもある、幸せな家族の記念写真だった。

そんな風景がイメージできる。


「少し、傍にいてもいいですか?」

「かまいませんよ」


里香は美由紀さんにイスをすすめて、そばを離れた。

そんな風景を少し離れた所から見ていた。


「道重先生、やりますねー」


と、大屋先生。

褒められてしまった。


「さあ、病棟業務が溜まっていますから、片付けないと」

「うーわぁ…そうだった…」


げんなりしながらも、水戸さん夫婦を見て穏やかな気分になった。

良い方向に向かいますように。

そう願いながら、ICUの自動ドアを出た。
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