女神湖伝説(ラジオドラマ)

仙人?

砂利を駆ける足音。小鳥のさえずり。
水のせせらぎの音。庭を掃く音。
ゆっくりと砂利をふむ音。

(トラ)「ああすっきりした」
(カズ)「あのおじいさんに聞いてみよう」
(アキ)「そうね。姫が淵のこと?」
(ヒデ)「そうそう、姫が淵」

庭を掃く音。
砂利をふむ音、立ち止まり。
(アキ)「すみません?」
(老人)「なんじゃな?昨日はゆっくりと眠れたかな?」
(皆)「はあ?」

(老人)「ハッハッハ。夕方から朝まで皆大いびきじゃったぞ」
(カズ)「あ、おじいさん、この近くに姫が淵という
小さな池があるのをご存知ありませんか?」
(老人)「姫が淵は、この女神湖の底じゃ」
(ヒデ)「この女神湖の底?」

(老人)「そうじゃ。大雨が降ると必ず鉄砲水になるというので、
明治の中ごろに女神湖と白樺湖は人造湖として大掛かりに造成された。
それまでは二つとも小さな池だったんじゃ。蓼科山、別名女神山の影

を映すから女神湖と名付けられ、銅像まで建っておるが、その昔は
今の御泉水の湿地帯のような沼じゃった。蝶が大量に舞う季節が
あっての。戦乱の頃に諏訪の姫が飛び込んで蝶になったと言われとる」

(アキ)「それだわ、姫ヶ淵伝説」
(老人)「500年ごとに天から船が舞い降りてくるという言い伝えもある」
(ヒデ)「それそれ、UFOの話も本当なんだ」

(老人)「さらに」
(アキ)「まだあるんですか?」
(トラ)「あの匂いの事だと思う」

(老人)「その通り。この一帯はその昔麻の群生地じゃった。
特殊な麻での。しびれ、麻酔はもとより、その煙をかぐと、
大いなる幻覚に落とし込まれる。その香りがまた甘くとろり

としていて逃れがたい。戦国の忍者が煙で集団催眠にかけたのも、
ここの麻だったのじゃ。その実が冠の形をしているので冠草。
甘い夢を見るので甘夢草。忍者達は蹴毬の毬と罠にかけるとで
毬罠と呼んでおった」

(トラ)「マリワナ!」
(老人)「昭和にはいって全て伐採されてしまったのは残念じゃが」
(トラ)「今でもどこかに?」
(老人)「あることはあるんじゃろうハッハッハ」

(アキ)「おじいさん、おいくつですか?」
(老人)「さあ、わしはよう知らん。今度天からの船が来るまで、
わしは生き続けにゃならんのじゃ、ワッハッハッハ」
(皆)「どうもありがとうございました」
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