オトナの秘密基地
考えてみても、後悔しない言葉なんて思い浮かぶはずはなかった。
だって、一番に思っていることは間違いなく行かないで欲しい、という願い。
私たちを置いていかないで。
ずっとここにいて、我が子の成長を見守って欲しい。
でも、言葉に出す訳にはいかない。
その気持ちを吐き出したら、自分は楽になるかも知れない。
けれどそれは旦那様の負担にしかならない。
妻に縋り付かれ、行かないでって懇願されても、それを振り払って死地へ行くなんてむごすぎる。
そんなこと、和子さんなら絶対にしない。
和子さんは……この時代の軍人の妻はこんな時、きっと堪える。
堪えて堪えて、誰にも知られないところでひっそりと泣くの。
旦那様の無事を祈りながら……。