オトナの秘密基地
「か~しゃん、だっこ」


カツヤが手を伸ばしてくるので、抱き上げようとした。


「今は父さんが抱っこしてやるから」


私より先に、旦那様が抱き上げた。


「カツヤ、覚えてろよ。

父さんにこうやって抱っこしてもらった事」


嬉しそうに抱っこする旦那様と、甘えてすりすりしている息子。

『中田和子』の私は、二人の様子をじっと見守りながら、夜道を歩いた。

舗装なんてされていない、人が通った跡だけが残るぬかるんだ道。

他の家の窓もほぼ真っ暗で、明かりがない。


「気をつけろよ、和子」

「はい」


旦那様はカツヤを抱っこしたまま、ずんずん歩いていく。

昭和の女性らしく控えめに、3歩下がってついていく私。

ついた先は、想像以上に大きな一戸建ての家だった。

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