杏子の墓(ラジオドラマ)

激痛

(若林のN)「その晩のことである」
スキヤキの煮える音。
(杏子)「もうお肉大丈夫よ、おかさん」
(母)「あーいいにおい。はようこんなんが食べたかったんよ」

(父)「はよう食べんさい、食べんさい。美味しいものをうんと食べて
きちんと薬を飲み続けときゃあ、もう発作は起きんと先生が言うとったろう」
(母)「ほうよね。あの発作の時には背骨にズキンときて立っとかれんのよ」

(父)「体力と精神力でお母さんは乗り越えられる!」
みんなの笑い声。
(母)「杏子、はよ京都に戻らにゃいけんのじゃろう?」
(杏子)「そう。期末もあるし、いよいよ四回生。卒論と教育実習で大忙し」

(父)「もう4年生か」
(母)「来年卒業、はやいもんよね」
(父と母)「小学校の先生、はははは」

声、遠のいていく。
(杏子)「うまくいけば登町小学校」
(母)「あほうね、ははは」
(父)「頑張りや杏子。後は大丈夫やけえ」
(杏子)「うん。もう疲れたから寝るわ。おやすみ」

階段を上る音。声近づく。
(杏子)「ふう、疲れた。ぐっすり眠ろう」
布団を敷く音。
(杏子)「よいしょっと。わー、かわいいパジャマ!
父が買ってくれたんだ」

時計の秒を刻む音。
寝息がかすかに聞こえる。
(杏子)「むむん」

寝返りをうつ音。
小さく心臓の鼓動が聞こえる。
小さな衝撃音が走る。
(杏子)「ううん(うなされる)」
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