冷たい旦那様


……最後の一文字を打ち終えたのは、もう日付の変わった深夜1時すぎだった。


こんなに早く終わらせることが出来るなんて。それもこれも、全て取引先の方々が好意的に対応してくださったおかげだ。


本来ならば、絶対に許されないミス。

それを起こしてしまった責任は、上司の俺にあり、俺の監督不行き届きが原因であって。


目の前が真っ暗になる感覚。

絶望に支配されそうになる心をなんとか奮い立たせ、後輩に動揺を悟らせまいとずっと気張ったままの空間は、まるで肺が酸素を拒んでいるかのように息が詰まった。


それでもわずか6時間ほどで出来たんだ。

少しだけ、ホッとする。



「…あの小崎さん、本当にすみませんでした…」


「あ?あぁ、いいよ。もう帰れ。次からは気を付けろよ」


「ありがとう…ございます」



部下はボロボロ涙を零しながら、何度も頭を下げて帰って行った。


イスに全体重をかけて座り、天井を見上げて息を吐き出す。


事の重大さが、責任の重さが、ただただ心臓にのしかかる。


息苦しくなって仰いだ先の天井は、無情なほどに真っ白だった。


…… 帰んねーと。あいつが待ってるしな…。


どっと疲れが溜まった感じだ。重たい体を起こし、静まり返った会社を後にした。




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