兎の方向⇄

「……それは良かったです」


頼輝はハヤテを見ながら言い、コーヒーのカップを空にした。


「兎佐美さん、達樹に伝言をお願いしてもよろしいですか?」

「あ、はい。いいですよ」


ハヤテを下ろし、メモ用紙とペンを取り出す。


「今日中に会社に来てくれ、と伝えて下さい」

「分かりました。伝えて置きますね」


メモ用紙に走り書きをした兎佐美は、そのメモ用紙を自分のデスクの上に置く。


「すみません、もう少し話していたいのですが、ちょっと時間がないので今日はこれで帰りますね」

「いえ、こちらこそ引き止めてしまって……」


急ぐ頼輝を見て、兎佐美は申し訳なさそうな顔をする。


「そんな事ありませんよ」


ニコッと優しく兎佐美に笑いかけ、ドアを開ける。

 
「……あ、兎佐美さん」


ドアの外に出た頼輝は、何かを思い出したように振り向いた。


「はい?」

「コーヒー、美味しかったです。また作って下さいね」

「!!!……はいっ!!」


嬉しそうに頷いた兎佐美を見て、頼輝は微笑みを浮かべた。


「それでは、また」


そう言って、ハヤテを連れて頼輝は動物病院を後にした。

< 9 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop