一緒に、歩こう




前に進んだはずなのに。

今さっきいた場所と

変わらない。




「わ…な、にっ」




「一緒に行く?俺、中行くんだけど」




靴を履いたまま、

しゃがんでいる矢野くんは

あたしを下から見つめた。

やけに色っぽいその瞳が、

自然とあたしの体を

赤く染めていた。

よかった、夕方のこの時間で。

昼だったら完全にバレてる。





「行きません。あたし、職員室戻るの」





「なーんだ、じゃあいいや」




矢野くんはそう言うと、

今履いたばかりの内履きを

下駄箱に片付け、

廊下と玄関の段差に

腰を下ろした。




「忘れ物取りに行くの?」




「別に。ただ暇だから」




「帰らないの?暗くなっちゃうよ?」




黙って、振り切ってでも

職員室に戻ればよかった。

こんなこと、

思ってても言わなきゃ

よかった。



< 72 / 497 >

この作品をシェア

pagetop