ゴースト ――あたしの中の、良からぬ……
いくら印刷技術が上がっても伝えきれないものが、原画にはいっぱいあった。

生身の、息づくような、生命感。空気感。

そこに絵の具が乗っている迫力。立体感。透明感。

その世界へ旅ができそうな、世界の奥行き、広がり。


(いいなぁ)


こんな絵が描けたら人生ステキだね。

あたしだったら、こんな絵が描けただけで満足して死んじゃいそう。


好きな絵を、好きなように、毎日のんびり描く生活。

そんな生活が、ずっと憧れだった。



「そうだ。お茶でも淹れるよ。

ペットボトルのしかないけど」


どれくらいの時間そうしていたのか。

薫さんの声でふと我に返る。


薫さんは楽しそうな足取りで雑然としたリビングに戻ると。

ソファの上に乗ったいろんなものをせっせとのけて、できたスペースにドサッと座った。

財布の札入れをのぞき込んで、五千円札を出す。

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