あなたの”その”足元へ
Sounddogに挿してあるipodを操作する。

ピアノのジャスが流れ出した。

グラス片手にソファーにだらしなく横になり、ぼんやりとした視線を窓の外へ向けた。

跳ねるような軽快なピアノの音。

今の雰囲気にあっていて、だから綺樹は流すことを思いついたのだろう。


「いい曲だな」


物憂げな視線が涼に戻ってきた。


「日本人のピアニストだ。
 このアルバムが評判良くてね」

「ふーん。
 なんていうの」


綺樹はふと押し黙ってから、おかしそうな顔になった。


「Breakout」


なぜ綺樹が一瞬逡巡したか、涼はわかって黙っていた。

ライナと涼の関係を変える行動を、偶然にも、暗に示唆した、と思ったのだろう。


「いい曲は歌謡曲ばかりじゃないだろう?」


涼が自室で、歌謡曲ばかり流して、勉強をしているのを知っての発言だ。


「おまえ、本当に一言多いよな」


気にしないように肩をすくめ、ソファーに寝そべると目を閉じた。

まつげ長いな。

涼は脈絡なく思い、それに気付いて視線を外す。

そして後は無言で汚れた皿を片付け続けた。
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