あなたの”その”足元へ
9.それぞれに負うもの
   *
スペインに寄った後、来る。

それがいつか分からない内に、学校から戻るとリビングにいた。

ソファーに足をたてて座り、書類を見ている。


「よお」


顔を上げて綺樹はにやっと笑った。


「おう」


涼は無表情に返した。

コーヒーを入れると綺樹に差し出す。


「サンクス」

「どうだった?」

「なにが?」

「仕事」


綺樹は一口すすった。


「まあ、大丈夫だろ」

「スペインは?」


途端に、綺樹の横顔が能面のようになった。


「別にどうも」


涼はソファーの向かいにある、ローテーブルに腰をおろした。


「つぐんだろ?」

「つぐ?」


綺樹は顔を向けた。


「冗談だろ」


凄い嫌悪感の表情だった。


「ごめんだね。
 なにを今更?」


書類をばさりと床に落として、いらただしげに煙草をくわえた。

しばらく綺樹は煙を吐き出していた。


「禁煙」


涼はそっけなくいう。

綺樹はふっと笑うように表情を緩め、煙草の火を消した。
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