泣き顔の白猫


「おいしー……やっぱり甘いもの摂んなきゃ頭働かないわー」

加原のこれは、話かけてきて、の合図だ。
自分でも面倒な奴だとは思うが、マスターは食器を拭きながら、それに応えてくれる。

「忙しいですか、やっぱり」
「そりゃあねぇ……情報が少ないですから、足使って集めなきゃ。そろそろ今年二足目です」

加原の言葉に、名波がほんのわずかに不思議そうな顔をする。
無防備に傾げられる小首。

「靴? 外、歩くお仕事なんですか」
「あれ? 言ってなかったっけ……警察官です、強行犯係、二年目」

ピースサインのように指を立てる加原に、名波は「え」と小さく声を出す。
相変わらずの無表情のままで、だ。

「最近物騒で、大忙しですよ。ホームレスの襲撃とか、ほら、若い人の不審死とかもあるし」
「あぁそれ、この近くですもんね。可哀想な話ですねぇ」
「ね、ほんと。マスター、なんか知りません?」
「さぁねぇ……こんな喫茶店やってたって、情報が集まったりなんてしませんよ。ドラマじゃあるまいし」
「ですよねぇ」

急に黙り込んでしまった名波の変化に、加原が気付くことはなかった。

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