泣き顔の白猫


「うん。ごめん」
「謝るのもずるいです」
「うん」
「……手、離してください」
「ん、もうちょっと」

名波は、顔を上げようとしなかった。
その代わりみたいに、手を振り払おうともしない。

離すのを惜しんでいる自分に気付いて、加原は苦笑いを浮かべる。

(……そろそろ認め時かなぁ)

なんでもなかったように名波の手を解放して、加原は言った。

「名波ちゃん、今度俺とデートしてくれません?」
「え?」

やっと顔を上げた名波の声は、わずかに上擦っている。

「ちょっと、ご飯でも。映画とか……あ、駅前ぶらぶらするだけでもいいし。雑貨屋さんとか、好き?」

変に緊張してしまって色々言い募る加原を、名波はなにも言わずに見ていた。

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