泣き顔の白猫
駅からだと『りんご』は警察署の向こう、加原の住む寮は、署を挟んで『りんご』とは逆方向にある。
予定外の仕事終わりに署と駅を目的もなく往復したことになるが、加原はそれを無駄足だとは思わなかった。
少し一人で考えたかった、というのもある。
現在の連続殺人のことも。
五年前の刺殺事件のことも。
職場のこと、仕事仲間のこと。
自分のこと。
名波のこと。
春とはいえまだひんやり冷たい風に、頭を冷やしてもらいたかったのだ。
実のところ、安本のことも少し気になっていた。
考えてみれば、被害者の共通点は最初から出身校くらいしかなかったはずだ。
本当ならば、二人目三人目の不審死があった時点で、真っ先に訪問してもおかしくない。
それなのに今になって情報を得、どうして加原が非番の日に話を聞きに行くことにしたのだろうか。
あえて加原に予定が入っている日を選んで、というのは考えすぎかもしれないが、なにかタイミングでも図っていたかのように感じられたのは確かだ。