泣き顔の白猫

もし加原がこの時、彼女の後を追って、声をかけていたなら。
海の方向へ向かう名波と、一緒に歩いていたなら。

あるいは、この事件の犠牲者は、一人減っていたのかもしれない。
だがそんなことは、この瞬間の彼には、全く知るよしもないことだった。


松前佳奈子の遺体が発見されたのは、その翌朝のことだった。


加原は、自宅からそう遠くない発見現場の住所を聞いて、思わず言葉を失った。
電話口で、安本が訝しげな声を出す。

「もしもし? おい、加原、聞いてんのか」
「……、死亡推定時刻、は」
「まだわからねぇよ、どうしたんだ」
「あ……ですよね、すいません。すぐ向かいます」

五年前の事件の最後の証人が遺体で発見された場所は、加原が昨日、名波が歩いて行くのを見た、線路の向こうの海辺だった。

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