泣き顔の白猫

ナイフから指紋が出た。

平河名波のものだった。


決定的な証拠を突き付けられてなお、彼女はほとんど顔色を変えなかった。
一週間ほど前に学校の廊下に落ちているのを見て拾い上げたが、オモチャかと思って近くの教室のゴミ箱に捨てた、と言った。

それが嘘であるという証明も、誰にも出来なかった。
しかし結果から言うと、平河名波は逮捕された。

あと十日ほどで二月も終わる、という頃のことだった。


名波は逮捕後もしばらくは冷静に否認を続けていたが、ある時を境に、急になにも言わなくなった。
弁護士相手にも心を開かなくなってしまったのだ。

その時、何が起きていたのかはわからない。

だがそれから二ヵ月ほど後には、彼女に懲役五年が言い渡されていた。
出所したのは、今年の三月の終わり頃のことだ。


そしてその四月から一月半ほどの間に、事件の証人――鈴木学たち四人、そして松前佳奈子が、次々と殺されている。
三年前の丸井の自殺は別件と見られているが、連続殺人は、名波の刑期終了直後から起きているのだ。

無関係であるとは、到底思えなかった。

< 97 / 153 >

この作品をシェア

pagetop