泣き顔の白猫


「あっつっ」
「ちょっとー、大丈夫?」

今日の『りんご』は客が少なくて、近くの席に座ったカップルの会話が、BGMのイーグルスにも掻き消されずによく通っている。

「猫舌なんだからグラタンなんて頼まなきゃいいのに」
「だってここの美味しいんだよ」
「知ってるよ」

もう、と言っているのが女の子で、水を飲んで再びグラタンに立ち向かった彼氏に苦笑いを寄越すと、「すいませーん」と手を上げた。

名波が横を通りすぎたので、加原は少し緊張する。

一週間前のあの日以来、名波からの連絡はない。
加原からは何度かなんでもない内容のメールを送ったが、返事は一通も来なかった。

デートをドタキャンしたことは、ちゃんと謝らなければいけない。
けれど、彼女の過去を知ってしまった今、どう接していいのかもわからないし、警察官としてはあまり関わり合いになるべきではないとも思っていた。

要は言い訳をして逃げているのだが、なまじ“警察官として”なんてきちんとした理由があるだけに、踏ん切りがつかない。

(ずるいよなぁ……)

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