スミダハイツ~隣人恋愛録~


しかし、街行く女性と、どう接点を持てばいいやら。

いきなり声を掛けるなんて、それこそ不審者じゃないか。


良太郎は、榊の言葉を実践しようとしていたが、もちろんまず一歩をどう踏み出せばいいのかがわからないのだから、どうしようもない。



新たな悩みにまたしても悶々と過ごすことしかできずにいたある日、チャンスは向こうからやってきた。



仕事が終わってからのことだった。


ロッカールームで着替えを済ませ、晩ご飯のことを考えながら、『洋食亭ササキ』の裏口から出た時のこと。

バイトの女性・豊田が、「堀内さん」と、良太郎を呼び止めたのだ。



「あの。いきなりですけど、今晩はお忙しいですか?」

「はい?」


つやつやに潤んだ唇の豊田。

豊満なバストは今にもボタンを弾き飛ばしてしまいそう。


豊田は特別美人ではないし、何より一緒に働くスタッフだと思っていたため意識したことはなかったが、榊に言われた通り『そういう目』で見てみると、ちょっとどきりとしてしまう。



「実は、私、その、前々から堀内さんのことが気になっていまして」

「えぇ?!」

「それでですね、えっと、仲よくなりたいと思いまして、まずはお食事でもと」


真っ赤な顔で言う豊田。

良太郎まで赤面した。


告白されたのなんて、26年間の人生において、初めてのことなのだから。



「ぼ、ぼぼぼ、僕とですか? 罰ゲームとかじゃなくて?!」

「そんな、罰ゲームだなんて。私の気持ちは真剣なものです」


声を震わせながら、でも豊田ははっきりと言った。



やばい。

信じられない。


良太郎はあまりのパニックに、直立不動で縮み上がりそうだった。
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