スミダハイツ~隣人恋愛録~


くだらない過去に囚われてどうするんだと思う。

麻子は『あいつ』とは違うし、大体、比べるようなことでもないはずだ。


なのに、それでも、心のひだに凝り固まった忌わしさは、そう簡単には消えてくれない。


榊が夢を選んだがために、いなくなった『あいつ』。

思い出して、そんな自分に辟易して。



どうして麻子だけを真っ直ぐに愛してやれないのかと、自分に憤りさえ覚えた。



だったら最初から、麻子に手を出さなければよかったんだ。

そしたら適切な『飲み友達』の距離にいられたのに。


いや、だからって、こうなったことを後悔してるわけじゃないし、それどころか、今は本当に幸せだと思っている。


結局は、自分自身の問題でしかないのだろう。

臆病さを理由に、いつまでも逃げまわっているわけにもいかない。



過去は、どう足掻いたって過去でしかないのだから。



わかってる。

わかってる、けど。


苦しくてたまらない。



「はぁ……」


人には偉そうにしておいて、自分はてんでダメなんて。



「あー、もう。思い浮かばねぇ」


榊は鉛筆を投げて頭を抱えた。


灰皿の中の煙草が増えていく。

それに比例するように肥大していく忌わしさに、榊は押し潰されてしまいそうだった。

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